組織の成長エンジン
リーダーの成長への情熱
ここ最近、海外で活躍するリーダーに対する
コーチングの依頼が増えてきています。
当然、言語等、海外の特殊事情への対処が話題になることもありますが、
効果的なリーダーシップの発揮の仕方については、
総じて、赴任国や経験を問わず原理原則があるという
印象を受けることが多くあります。
先日、上海の工業地帯に工場を構える、
非金属メーカーのトップA氏と面談をしました。
海外でのキャリアが豊富で、これまで台湾や韓国で
工場の改革に成功してきた人物です。
定年も近いA氏は、これまでの経験を端的に語った後に、
冒頓な口調で言いました。
「わたし自身は、世界の各地でそれなりにやってきた自負はあります。
でも、これまでの私の成功パターンは、
ここ中国では通用しないように感じています。
どうも勝手が違うようなので、これからまた、新しく学ばないといけない。
私自身が変わるためにも、コーチをつけることを考えています。」
そう語るA氏からは、「もっと良くならねば」という必死さ、
「もっと良くなりたい」という成長への情熱が伝わってきました。
そして、A氏からは、海外で成果をあげているリーダー達に見られる、
ある共通のスタンスを感じました。
・これまでの自分の方法を見直し、他の方法を適用する前向きな姿勢さ
・これまでのスタイルに固執せず、変えるべき点を受け入れる柔軟さ
・自分の強みを維持しながら、多様な環境の要求に適応しようとする寛容性
前々回のGlobal Coach Magazine でもご紹介しましたが、
Korn/Ferry Instituteの調査では、
アジアで成功するためにリーダーが備えるべき
価値観の最高位に、「謙虚さ(37.2%)」が挙げられています。(※)。
わたしがA氏から感じたのは、まさにこの「謙虚さ」なのかもしれません。
大阪に本社を置くグローバル企業のCEO、B氏とは、
1年に渡ってコーチングを通じてお付き合いがあります。
1年前、「役員にコーチを」と我々が提案した場面で、
B氏は意外にもこう言いました。
「役員にコーチをつける必要性は、充分、分かりました。
でも、最初にコーチを受けるべきは、役員の上にいる私だと思いました。
私が変われば役員も変わろうと思うでしょう。
なので、まずは私から挑戦してみます」
そして、B氏は、
「リーダーが自ら変わる姿勢を示すことが、組織変革の第一歩だ」
とも付け加えました。
実際、我々のエグゼクティブ・コーチング・プロジェクトの組織展開では、
原則「上層部から」変革することを提案します。
経営層が変革の方向を示し、マネジメントと共に実現に向けて動く、
その流れに沿ってリーダーシップの変化と組織の変化を創出します。
その際に、リーダー自身が示す変化や成長への情熱が
フォロワーに伝染し、彼らを動かすことが少なくありません。
米国拠点でヘルスケアビジネスの戦略部門を統括するC氏は、
「組織の混乱の要因は自分自身のリーダーシップの問題である」
ということを自覚していました。
C氏は、私と取り組んだコーチングの中で、
「現場の人たちから、わたしのリーダーシップの課題点について
正直に思っていることを聞き出してきてほしい」
と私にリクエストしてきました。
そのリサーチ結果に触れた瞬間、
C氏は、相当に落ち込んだ表情を見せましたが、
その後、「自分が改善すべき点」という資料にまとめ、
それを部下の前で公表し、「変化・成長すること」を約束しました。
数ヶ月後、彼の直下の部下が、
部門の混乱の一因は自分にもあることを認め、
自らもリーダーとしての変化や成長が必要であることを
C氏に伝えた上で、コーチングを受ける決意をしました。
リーダーが、「謙虚」な姿で現実に直面し、
自らの変化・成長に挑戦すること、その熱意を具体的に体現すること、
それは「人は変わるべき」という正論を何度も繰り返すよりも、
よほど説得力があるのでしょう。
人の「成長したい」という情熱や姿は
伝播力を持ち、組織に浸透し、「成長する組織」のエンジンとなります。
外資系企業でアジア統括を務めるD氏は、
「成長する組織」づくりの秘訣をこう語りました。
「自分の成功体験より、成長体験を伝えることです。
自分が成長した体験を語ろうとすると、
リーダーである自分に、弱みがあったことを語らねばなりません。
しかし、メンバーはそこに共感するみたいですね」
成功物語は、リーダー自身の強みを強調するが、
成長物語は、自分の弱みも曝け出す必要がある、
その過程でリーダーが身近に感じ、成長に挑戦したリーダーに
共感を覚えるのだ、という指摘です。
「変わらないといけないのは上司だけではない。
我々部下も当然変わる必要があると思っています」
これは、D氏の部下が、インタビューの中で語った言葉です。
常に先を行くように見えるリーダーが、
弱さを抱えながら、愚直に、謙虚に、成長に挑戦し続ける。
そうした姿こそが、変化への苦労と
困難を抱えるメンバーの「共感」を呼ぶのではないでしょうか。
いかに優れた評価システムや教育体系であっても、
それだけで「社員の成長への情熱」を喚起することは困難でしょう。
「組織の成長エンジン」を駆動させるもの、
それは、リーダー自身の「成長への情熱」であり、
「自己成長への謙虚さ」なのかもしれません。
これまでの私共の経験では、この原理原則に
国境や年齢は重大な影響を与えていないように思います。
【参考資料】
※"Lessons from the Asian C-Suite:
Building Global Talent and a Culture for Success"
by Michael Bekins
The Korn/Ferry Institute

